銀色に光るクールな顔つき。叩くとカンカンと響く硬い金属音――。その辺りで売っている外国産の安い炭とはモノが違います。辰巳館の名物料理、「いろり献残(けんさん)焼」を美味しく焼き上げているのは、尾瀬のふもと、風光明媚な山里で親子二代にわたって炭焼きを続けている、須藤賢一さんの「尾瀬木炭」です。
地元産ナラの切炭を使っています
三角屋根の炭焼き小屋から白い煙が勢いよく立ち上っています。
ここは、群馬県片品村。人口4700人弱の小さな村で、専業で炭を作り続ける炭焼き職人、須藤賢一さんを訪ねました。
辰巳館と「尾瀬木炭」との出合いは、館主である四代目、深津卓也が宿を継いだ頃。食事処の改装に着手する中で、「少しでも煙の出ない囲炉裏料理をご提供したい」と考えたのがきっかけです。知り合いの設計士の先生にご紹介いただいたのが、片品村の炭博士といわれる須藤金次郎さんでした。平成22(2010)年に黄綬褒章を受章、現在はその遺志を継いで、息子さんである、須藤賢一さんが炭焼きの火を守っています。
材料は地元のナラ(どんぐりの木)。外国産の安い炭とは全く異なる「堅炭」で、火力は強いのに煙が少ないのが特長です。
白炭と黒炭のいいとこドリ
高級炭の代表格といえば、備長炭(白炭の一種)を思い浮かべる人も多いと思いますが、備長炭だけが高級なわけではありません。須藤さんの作る「尾瀬木炭」は一般的な黒炭より高い温度で焼成するため、火力が強いのはそのままに、白炭のように火持ちがよいのが特長。
須藤さんは言います。
「朝から晩まで焼き鳥のように焼くなら白炭がいいし、すぐに火をつけたいなら黒炭がいい。両方の良さを兼ね備えたのがこの『尾瀬木炭』です」。
ということは、この炭は、旅館料理にぴったり! 十分な火力は確保しつつ、すぐに火が着いて、会席料理の間中、ずっと燃えていてくれる。宴席が延びても、焼きおにぎりまでしっかり火種が残っているのは嬉しいですね。何より、この炭で味わうお肉や川魚はひと味もふた味も美味しく仕上がるんです。
青い煙に変わったら、釜出しのサイン
かつて、日本中に炭焼き小屋がありましたが、生活スタイルの変化とともに炭焼き職人は徐々に姿を消していきました。
だから、存在そのものが希少価値です。
堅炭をつくるには、窯をゆっくり焚いて、最後に限りなく高温で焼きしめるのがポイント。1000℃程度の高温にすることで、中の不純物が燃えきって、炭が締まる。これが、炭の品質を決める「精錬」という行程です。
火をつけてから6~7日後に煙が青っぽくなったら、そろそろ火を消す頃合いだといいますが、火を消してもすぐにでき上がるわけではなく、そこからさらに炭釜を密閉し、釜出しするのは約3日後(夏場は最低4日)。
すべて、煙の色やにおいなど職人の勘が頼りです。ひたすら、炭と向き合う地道な作業が続きます。
木酢液にもこだわっています!
炭焼き工場は見学もできますので、ぜひお立ち寄りください。
「尾瀬須藤林産」の工房にはフラスコなどが無造作に置かれた、ラボラトリーのような部屋があります。
「一体、なんだろう?」と不思議に思いますが、山桜の黒炭を蒸留精製してつくった木酢液を作っているのだそうです。これを作るには、原液を1年半以上置く必要があるとのことで手間がかかります。
木酢液は、タールを取り除いているので、無色透明。
打ち身、やけど、虫刺されなどに効果的。純度が高く、香りを嗅ぐとまるで、燻製ベーコンのような匂い。肉や魚につけて食べると燻製されたような香りがしますのでお試しあれ。スポイト瓶入り(30cc)は1本1260円。道の駅などで購入することができます。また、炭焼きを手伝っている人が木炭を使ったアクセサリーを制作、販売もしています。